MUTIAN(ムティアン)によるFIP治療~200例の治療経験から~

MUTIAN(ムティアン)でFIPの治療を開始してから2022年2月でちょうど2年間が経過しました。日本で6番目のMUTIAN協力動物病院として参加してから、現在までにMUTIANで200症例以上の治療を行わせていただきました。その2年間の治療経験からいろいろな情報を発信できるようになりましたので、飼主様や獣医師の先生方に少しでもノウハウを伝えられたらと思いコラムにいたしました。

以前のコラムはこちら(↓)からご覧になれます。

MUTIAN(ムティアン)によるFIPの最新治療

MUTIAN(ムティアン)って何?

中国の木天生物科技有限公司(Mutian Global Biotechnology Limited)が製造しているFIPの治療薬です。厳密にはMUTIANは社名でFIPの治療用として発売されたものはXraphconn(ラプコン)という製品です。日本での扱いは未承認動物用医薬品となっています。同じような抗ウイルス作用を示す成分を含有したものは中国では数種類発売されており、GS441524を含んでいる製品として多数流通しています。

MUTIANの効果は本物?

未承認の為、具体的な効能を謳うことは法律上難しいのですが、各方面の情報からFIPに対して90%前後の寛解率があるようです。同様の効果があると報告されているものに、オーストラリアと英国で流通している獣医師用レムデシビルと、経口のコロナ治療薬として流通し始めたモルヌピラビルがありますが、どちらも日本国内の獣医師が入手することが困難です。

亡くなってしまうケース(約10%)のほとんどが、治療開始から1週間以内に命を落としています。進行が速い病気なので治療開始までに時間がかかって来院されたケースは、助かる可能性が低くなってしまいます。特に、時間とともに貧血がひどくなる傾向があるため、輸血するほどの重症例では残念な結果になることが多いことを説明しています。

日本と海外で発表されたMUTIANの治療効果に対する論文をご紹介いたします。

日本→飼主所有のFIPの猫 141匹に対する Xraphconnによる治療効果のT-BIL濃度による予測

ドイツ→『GS-441524を含む経口多成分薬による猫伝染性腹膜炎の猫の治療』

MUTIANの入手方法

全国に15件あるMUTIAN協力病院での処方の他に、MUTIANを取り扱っている動物病院が全国にあります。広告することを禁止されているため、自院の患者様の為に使用されている病院様が多いようですので、見つけ辛いかもしれません。SNSや口コミで近くの動物病院を探してみたり、Facebookにあるグループに参加して情報収集するのが良いと思います。

MUTIAN社のセラー(販売者)に連絡を取り、飼主様が個人輸入して治療することも可能ですが、必ず状態をチェックしていただく獣医師の協力が必要です。治療に理解していただける先生も以前に比べると増えましたが、MUTIANの使用に否定的な先生も多くおられますので協力してくださる先生を大切にしてください。

MUTIAN Xraphconnの価格について

海外からの輸入になるため、為替レートの影響もうけますが、MUTIAN協力動物病院では200㎎の錠剤で4800~6000円(±税)ほどで処方されています。これを通常84日間継続して投与することになります。体重1㎏につき100~200㎎の量が必要になります。

※ウェットタイプ4㎏の猫ちゃんですと400㎎/日×84日間で約94万円ほどのお薬代が必要になります。ドライタイプですとこちらの1.3~2倍の費用が必要になります。

あおぞら動物病院での診療の流れ

来院までの流れ

オーナー様の多くがネットでいろいろ調べてきてくださるので、当院にいらした方は高額な費用が掛かることをご理解されているようです。

診療の最初に、当院での治療実績と今後に行われる治療の流れを説明しています。検査や治療より初回の説明に一番時間をかけています。いろいろと複雑なため、資料をお渡しして一緒に説明されていただいております。必ずお電話でご予約を取っていただき、午前・午後の早い時刻での来院をお願いしています。

リンパ腫や他の疾患など、FIPを疑うが実際には違う病気であるケースも多く来院されるため、コロナPCR検査をはじめ、血液とレントゲンやエコーなど全身的なスクリーニングを再度行わせていただきます。かかりつけ医から持参していただいた検査データも参考にさせて頂いておりますが、多くは追加の検査が必要になります。

当院が行っているFIPのスクリーニング検査

体温の測定は非常に重要です。来院時の6割のケースで39.2℃以上の発熱が認められました。

【血液検査】

血液スクリーニング・・・多くの例で貧血やリンパ球の減少が認められています。FIPに特徴的な黄疸も見られますが、必発ではありません。

コロナウイルス抗体価・・・FIPの原因となるコロナウイルスに対して作られる抗体の量を調べます。各検査会社によって測定方法が違いますが、当院で採用しているマルピーライフテックの検査系では<100~>102,400倍まで細かく分類が可能です。数値が大きいほどFIPの可能性が高くなります。

コロナPCR検査・・・検体(血液、腹水や胸水、リンパ節などからのサンプル)でFIPの原因となるコロナウイルスの遺伝子の存在を検出します。70~80%程度の精度とされていますので、これだけでは判定できませんが、検出されればFIPの可能性は高くなります。

炎症マーカーAGP(α1AG)・・・全身性の強い炎症を引き起こす疾患なので、炎症マーカーの数値が高ければFIPの可能性が高くなります。概ね2000以上の数値(正常736未満)では84%でFIPと診断されたと報告があります。

蛋白分画・・・血液中の蛋白質(A:アルブミンとG:グロブリン)の割合がFIPの猫では正常猫と比べて大きく変化します。栄養分であるアルブミンは低下し、免疫にかかわるグロブリンは大きく上昇します。この二つの要素の比率をA/G比とし、FIPを疑う猫では0.45以下(正常0.6以上)になることが多くなります。

【画像検査】

X線検査・・・胸水や心臓病の確認や他の疾患を除外するためにレントゲン検査を行っています。

超音波エコー検査・・・腹水の確認や各臓器やリンパ節の形状の異常を発見します。よく見られるのは、空腸リンパ節の腫大(正常の数倍程度)や腎臓の形状の不整です。FIPと思われていたケースで別の腫瘍が見つかったケースもありました。

【その他の検査】

貯留液の成分検査・・・腹水や胸水を採取して成分を分析します。主に、色調や粘稠性、比重や細胞数、蛋白濃度からFIPなのか別の疾患なのかを鑑別します。FIPでは通常黄色味の強い粘稠性の高いドロッとした液体が採取され、滲出液に分類される液体が採取されます。

検査結果の説明

2時間ほどで全ての検査が終了します。PCR検査や抗体価の検査は外部に依頼するため、FIPと確定するためには最低でも2日~5日ほどかかります。結果を診断用フローチャートに当てはめて、現時点でのFIPの可能性を説明します。腹水や胸水が貯まるウェットタイプと呼ばれるFIPでは他の疾患との鑑別がしやすく、進行も早い為に、確定診断前に治療を開始することもあります。
確定前に治療を開始することに対して懐疑的に思われる先生も多くいらっしゃいますが、結果を待てずに数日で亡くなっていくケースや診断結果を待つ前に治療の反応(数日以内の解熱や食欲の改善)が見られるケースが少なくないため、オーナー様の希望により結果を待たずに治療開始することもあります。MUTIANはFIP以外の病気には全く効果が無いため、治療に対して良好な反応が見られればFIPの可能性は非常に高くなります。

MUTIANの必要量

MUTIAN社の推奨する薬用量はウェットタイプでは100㎎/㎏/日、ドライタイプでは100~200㎎/㎏/日で細かく分類されています。臨床的な特徴と、貧血の進行具合で早期・中期・中後期・後期と分類して必要な量を決定します。必要な量が足りない場合に、効果が不十分であったり、投薬終了後の再発の率が上がると報告されています。

投薬方法のレクチャー

空腹時に服用することで最大の効果を発揮するため、錠剤のまま投薬できるように病院内でレクチャーを行います。錠剤のまま投薬することに慣れていない飼主様が多いため、ビオフェルミンやビタミン剤などの錠剤を使って実際に投薬の練習をしていただいております。専用の投薬器(ピルガン)を使った方法もレクチャーしていますが、ほぼ全ての方が当日の夜からMUTIANの錠剤をご自宅で投薬できるようになっています。

初日以降のスケジュール

毎日決まった時間に、計84日間投薬していただきます。初診以降、体調に問題なく、体温の平常化と食欲の改善が確認できましたら次回の来院は1週間後になります。1週間分に必要なMUTIANを処方させていただきます。希望により1日分からの処方も可能です。

当院では副作用の確認のために、1週間後の検査、効果の判定の為に2、6、10週目の検査を行っています。主に、貧血や炎症マーカーの改善、A/G比が上昇しているかをチェックしています。腹水や胸水の減少やリンパ節のサイズもチェックします。

10週目(70日目)の検査では84日で投薬を終了できるか、延長の必要があるかを判断しています。再発が無ければ投薬終了1か月後、3か月後に検査を実施し、完解の判定をしています。

FIPの再発と再発補償について

残念なことですが、MUTIANで治療したFIP症例の5~10%前後に投薬終了から数日~2週間ほどで再発するケースが見られます。多くは、急激な食欲不振が特徴ですが、進行が早く、1週間ほどのうちにドライタイプの神経症状のような末期的な症状で亡くなってしまうことがあります。当院では原因不明で食欲不振が2日続いたら必ず連絡を頂くようにしています。再発時にはFIPに特徴的な発熱(50%前後)や検査データの異常はほとんど見られないことが多いです。

再発時には、200㎎/㎏/日の最大量で6週間(42日間)再投与を行ってウイルスを封じ込めます。

全国に15軒あるMUTIAN協力病院で治療を受けているケースでは再発時にMUTIAN社から無償でXraphconn(ラプコン)の提供を受けることができる約束がされています。ある程度のFIPの治療とMUTIAN社との取引実績が認められると協力動物病院に認定されます。

再発補償を受けるための条件は細かく決められています。(例えば、ウェットタイプの後期は適応外だったり、猫エイズや白血病ウイルスが陽性である場合は適応されないなど)。

補償の対象である場合は、投薬最終日から6ヵ月間は再発補償を適応することができます。

なぜ、かかりつけ医はMUTIANを処方してくれないのか?

FIPで苦しむ猫ちゃんとオーナー様を助けたいと思わない獣医師は日本中に一人もいないと思います。MUTIANの流通が、主に中国のブラックマーケットで扱われていることが大きな弊害になっていると感じます。

・メジャーな製薬会社が効果や安全性を確認する臨床試験を行った薬では無いこと(猫だけでなくヒトや環境に影響がないのか?)。

・成分がはっきりしておらず、主成分の製造元に対しての特許侵害の可能性が無いのか不明。

・非常に高額な治療費がはたして適正なのか?

・情報が少なく、どこから入手できるのかわからない。

・本当に効果があるのか、一部の獣医師しか使用していないため、不安。

・高額なMUTIANの在庫を抱えても、実際に使用する症例があるか不明。不良在庫のリスク。

私がお力になれる情報提供

MUTIANを使用したFIPの治療に関して、獣医師同士の勉強会グループをFacebook上に作っております。現在、180名ほどの獣医師に参加していただいております。ご興味のある先生はFacebookに参加されたのち、「MUTIANについて勉強する会」を探していただければご案内いたします。MUTIAN以外でのFIP治療についても勉強できればと思います。ぜひご参加をお待ちしております。