猫の慢性腎臓病の治療・自宅点滴【獣医師監修】

2019年01月11日

あなたの猫ちゃん、こんな症状はありませんか?

◆お水を異常に飲みたがる。
◆トイレに行く回数が増えた
◆吐くことが多い
◆最近食欲がなく、やせてきた
◆お口がくさい

腎臓の病気の疑いがあります!

慢性腎不全は5歳を過ぎたころからかかりやすくなる死亡原因ワースト1の病気です。

猫が腎臓病になりやすい理由

 猫は、その祖先が中東の乾燥地帯などで生活していたリビアヤマネコであるため、尿中に排泄される水分が少なくてすむように、濃縮された尿を排泄します。その分、人間や犬に比べて腎臓を酷使させている動物です。また、尿路結石による腎臓や尿管へのダメージが原因になることもあります。

慢性腎臓病の症状は?

腎臓は左右1対あるソラマメの種のような形をした臓器で、体の中で発生した有害成分(尿毒素)を排泄するため、尿を作る非常に重要な臓器です。また、造血ホルモン(エリスロポエチン)を生成している為、腎不全とともに貧血が進行する場合が多くあります。

腎臓は肝臓と並んで『沈黙の臓器』と言われており、正常な腎臓機能の75%が失われないと、症状が現れません。初期の症状で発見しやすいのは異常にお水を飲みたがったり、尿量が増えて薄いオシッコをするようになることです。そのまま経過すると、食欲や体重の減少、嘔吐の回数の増加が見られますが、逆に言うと症状が現れたころには腎臓がかなりダメージを受けている状態といえます。肝臓と違って、腎臓には自己再生能力がありません。壊れた腎臓は再び元気になることはないのです。

慢性腎臓病の治療について

腎臓病の治療は、人間の医療では人工透析や腎臓移植なども行われています。しかし、猫ちゃんの場合には技術的にも治療コスト的にもなかなか行うことが難しい治療です。ヒトの透析治療には年間500万円以上の医療費がかかるそうです。

そのような環境での治療の大原則としては、完治が望めない病気だけに、病気の進行を少しでも遅らせることにあります。
病院に連れてこられたころの猫ちゃんの多くは脱水と、尿毒症のため非常に消耗した状態になっています。また、重度の貧血を起こしている場合もあります。
初期の治療としては、点滴をして脱水の改善と、尿を作らせて尿毒素を排泄させます。
状態が落ち着いた後は、飼い主様との連携プレーが必要となってきます。
腎不全の進行度合いにより

①腎不全用療法食の給餌。
②経口吸着剤の投薬。
③定期的な腎機能のチェック(血液や尿検査など)。
④フォルテコールなどの血管拡張薬(ACE阻害剤)の使用。
⑤セミントラやラプロスなどの腎臓を保護するお薬。
⑥貧血の治療にエリスロポエチンなどの造血剤。
⑦皮下補液(皮下点滴)による水分補給(自宅での点滴可能)。

などを行っていきます。

食餌療法による保存療法

初期の治療として病気の進行を抑える保存療法として①食事療法が治療成功の重要なキーポイントとなります。

食餌療法ではリン(P)を制限することで、通常食に比べ2.5倍寿命が延びることが報告されています。また、蛋白質を制限することにより尿毒症とさらなるリンの制限(蛋白質に多く含まれている)につながります。

皮下点滴(皮下補液)による対症療法

また、食餌療法や投薬治療だけで体調が良くならない場合は、自宅での皮下補液(皮下点滴)療法も非常に有効です。ネコさんの性格にもよりますが、ご自宅で点滴をすることも可能です。当院でも常時10件以上の猫ちゃんオーナー様が自宅での皮下補液療法を行っております。

通常、2~3回ほどレクチャーさせていただければ、自宅での皮下注射が可能になることが多いようです。

適切なホームケアができれば、慢性腎不全の状態でも猫ちゃんにとって快適な生活を送らせることができます。

20歳以上のご長寿猫ちゃんを見かけることも多くなってきました。残念ながらわたしの猫は13歳と16歳にて腎不全で亡くなりましたが、最後まで安らかに過ごさせることができました。この病気は早期発見が非常に重要ですので、中~老齢の猫ちゃんを飼っている飼い主さんは日頃の健康確認(特に飲水量や尿量チェック)を心がけてください。

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