犬の乳腺腫瘍・乳がんの治療【獣医師監修】

2019年01月11日

乳腺腫瘍は老齢の雌犬に頻発する腫瘍です。犬では他の動物に比べ非常に高率に認められ、発生率はなんと雌犬の25%(4頭に1頭)との統計もあります(1994、1995年)。
これらの約半数は悪性腫瘍(ガン)に分類され、再発や他臓器への転移も多い疾病です。

犬の乳腺腫瘍の原因

この腫瘍の発生原因として、環境的、遺伝学的要因が関与しているといわれていますが、ホルモン的影響が最も強く関係しています。
ワンちゃんではエストロジェン、プロジェステロン、成長ホルモン、プロラクチンというホルモンが影響することがわかっていますが、この中でもエストロジェン(卵胞ホルモン)に対する感受性が、乳腺腫瘍の40~60%にあることが知られています。
多くの飼い主さんが御周知のように、乳腺腫瘍の予防には避妊手術が有効なのですが、これには卵巣から分泌されるエストロジェンが強く関与していることが理由にあるのです。
しかし、この避妊による予防効果は、発情を迎えるたびに低下し、発情を3回あるいは2.5歳を越えると無くなってしまいます。

乳腺腫瘍の治療法

乳腺腫瘍の治療は、外科的摘出が最善の手段ですが、他の腫瘍同様に早期発見・早期治療が原則です。
乳腺のしこりはお腹を撫でたりした時に比較的簡単に発見できますが、多くの飼い主さんが大きくなるまであまり気にせず放置してしまう傾向にあります。
「年寄りだから手術がかわいそうで」と、子供の頭大にまで巨大化した乳腺腫瘍をぶら下げたワンちゃんを連れてくる飼い主さんがいます。中には皮膚が破けてウジが湧き、ひどい悪臭を放った状態でやっと連れてくる方もいます。いったいどちらがかわいそうなのでしょうか?

犬の乳腺は胸部から下腹部まで5~7対ありますが、同一の乳腺に複数の異なった種類の腫瘍が発生することもあり、良性あるいは悪性(ガン)の判定は、病理検査に出さなければわかりません。先述のように悪性の場合再発や転移が多い腫瘍なので『小さくてほとんど大きさが変わらないから良性』などと自己判断せずに小さくても早期に治療することを考えましょう。

乳腺腫瘍の外科手術の術式

腫瘤のみの摘出 部分乳腺摘出両側乳腺全摘出
発生した腫瘤のみを摘出する右か左かに限局している腫瘤に対して行う。関連した3つ以上の乳房をセットで摘出する。複数の乳腺に腫瘍が発生した場合に適応。1ヶ月間空けて片側ずつ全ての乳腺を摘出する。
利点:1回の手術時間は最短で傷も小さく動物に対しての負担が少ない。欠点: 再発の可能性が一番高く複数回の手術になることがある。利点:手術の負担は中程度だが一般的に行われている手術。再発は中程度に少ない欠点:残された乳腺に再発の可能性がある。利点:再発の可能性が最も少ない。欠点:一度に全ては取れないため、2回の手術が必要。麻酔時間も長く、傷も大きくなる。

避妊手術を同時に行う必要はあるか?

同時に避妊手術を行うことによって以下のような利点・欠点があります

<利点>
・発情のたびに腫瘍の予備軍(触診で見つけられないサイズ)が成長するのを予防する効果がある為、再発(再手術)のリスクが少なくなる。
・高齢犬に多い子宮疾患(1/500頭程度)を防ぐことができる。

<欠点>
・開腹手術をするので、手術時間が20~30分ほど延長される。
・避妊手術の追加費用がかかる。
・避妊手術後は肥満になりやすい傾向にある。

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