需要があるのになぜか市場から消えていってしまうものがいろいろありますが、ウサギやハムスターを診療している先生が一番ショックを受けたのは恐らくこのクロロマイセチンシロップこと『クロロマイセチンパルミテート液(小児用)』で間違いないと思います。
クロラムフェニコールという抗生物質の一種ですが、粉の状態だと恐ろしく苦いお薬です。仕事がら薬が苦いかどうか実際に舌で確かめることも多いのですが、ひと舐めするだけでコップ何杯分も口の中をすすがないと苦味が消えません。私の知っているクスリの中では最強クラスの苦味です。
そんな強烈な抗生物質なのですが、特定の動物や特定の病気には無くてはならないお薬です。
ウサギは大きな盲腸に非常に多くの有用なバクテリアを蓄えています。一部の抗生物質はこの有用なバクテリアまで殺してしまい、ウサギさんをしに至らしめる可能性が高いものもあります。
実際には、動物病院で扱う抗生物質のうち、このクロラムフェニコールを含めた数種類の抗生物質しか安全に使用することが出来ません。
また、ウサギのトレポネーマ症(ウサギの梅毒)ではこのクロラムフェニコール以外の抗生物質が効きにくく、さらにこの抗生物質を1ヶ月近く飲ませないと完治に持っていけないため、非常に厄介です。基本的には生殖器周囲から炎症が見られますが、食糞をする動物なので、鼻の周りにも痛々しい皮膚炎が生じます。
梅毒の治療にはペニシリンという抗生物質が非常に有効なのですが、ウサギさんはこの抗生物質が使えませんのでクロラムフェニコールを投薬します。この強烈に苦いのですが非常に有用な抗生物質を飲ませるために、以前は苦味を感じさせないように調合した『クロロマイセチンパルミテート液(小児用)』というシロップ剤が、どこの動物病院にもありました。
本来は人間の小児用のシロップ薬のため、人間での需要減少とともに2010年に完全に製造が中止されてしまいました。製造中止を知ったときにあわててストック用に5本ほど仕入れたのですが、2年ほどで無くなってしまいました。
当院ではウサギの患者さんが全体の2割と多いため、タイトルのようにこのお薬がどこかの製薬会社さんが再販してくれることを願ってやみません。
追伸:このお薬が無くなってからもう8年が過ぎましたが結局再発売されることはありませんでした。現在、あおぞら動物病院では苦肉の策として、クロロマイセチンの錠剤をドライフルーツに隠して投薬する方法や、甘いシロップに混ぜて処方していますが、かなり苦いのでうまくいかないケースあります。非常に残念です。